大切なものは?
ふと思い出した事があった。それは昨年、作曲家の遠藤実先生、作詞家のいではく先生、そして大変お世話になっている何人かの皆さんとの会食会の席で切手の話が話題になった事である。言わずと知れた名曲、両先生の作品、「北国の春」が切手として発売された話であった。歌謡曲名が切手になる事はひょとして初めての事かもしれない。いずれにせよ名誉な事で芸能界で生きている私達にとっても恐縮ながら、ご本人達と同じくらい誇りに感じた。そんな状況を突然思い出しながら、私も子供の頃に切手収集をしていたので、懐かしさで探してみようと思いついた。ひっとして高価なものが残っていないか期待を胸に?蔵の中を物色してみることにした。たしか竹で編んだケースに入れたはずだと、埃っぽい中で鼻はグズグズ、目はショボショボで悪戦苦闘!。でもそんな中、違う物を見つけることが出来た。それは古いギターケースであった。いわゆるフォークギター用の厚いものではなくエレキギター用の幅の薄いものである。もちろん中にはギターが入っていた。私はデビュー当時を除いて1980年以降は楽器を演奏することをしなくなっていた。10台以上のいろいろの名作ギターをコレクションしていたのだが数台を除いては仕舞い込んでいた。そんな訳で切手を探す事を忘れ、ギターのことに集中していた。デビュー後はYAMAHAのギターのモニターをしていたしデザインを提供した関係でオリジナルモデルの作品の数台はオブジェ感覚で常時リビングルームに飾ってあるのだがやはり思い出深いのはアマチュア時代に使用していたマーチンD-18。それとビートルズのジョン・レノンが使用していたエピフォンのセミアコーステイックと同型のギター。これは当時、ある楽器店でやっと見つけた中古の一台である。見つけたものはまさにそれであった。1960年前半の製造でいささかマイクのノイズはでるものの私にとっては宝物。それを数年もの間、粗末に保管していた事に申し分けなく感じてしまった。「ごめんな!」と、ひとり言をいいながらよごれをふき取り、弦を張り替え、手入れをしはじめながら色々な想い出が蘇ってくる。傷のひとつひとつが思い出…。その二つのギターがあってこそ今の自分がある…きっとそうだろう。そして、物を大切にする事を忘れてしまっていた自分を情けなく感じた。でも、それとは物だけではなく人間の関係にも置き換えられるかもしれない。お世話になった人を忘れていたのでは?連絡もしないままにいつのまにか流されていたのでは?そんな気がした。そんな折、偶然にも定年を数年前に迎えたテレビ朝日の安藤仁さん、そしていまだ現役でご活躍の前田武彦さんからメールでの連絡が入った。「大切なもの、大切な人を忘れていませんか!」、妙に因縁めいた気がした今日である。