明日に向かって

 私達は今までにコマーシャルソング、イメージソング、市、町、村の歌、社歌など数多くレコーデイングしてきた。曲数にすればとんでもない位の数字になると思う。最近、コマーシャルソングで懐かしい曲が流れている。それは「明日がある」のメロデイ―だ。今の若者には,故坂本九さんのイメージはわいてこないだろうが、新鮮に感じるのであろうか、明日がある…明日がある…明日があるさ〜。何か暗い世の中を忘れようとしているのかも知れない。
 さて、かれこれ8年くらい前に作曲家の遠藤実先生から、ある会社のイメージソングを歌うように直接のご依頼があった。本当のところ驚いてしまった。チェリッシュに演歌?どう考えてもマッチしない気がした。お断りしようか?どうしよう?でも、依頼相手は遠藤先生、それも直接!お断りできる事など出来なかった。半信半疑どんな作品ができ上がるのか、私達に歌えるのか?心配であった。そして数週間後に資料が届いた。作詞:いで はく、作曲:遠藤実、「明日に向かって」である。歌詞の中に、(あなたは青春ど真中〜ただいま発展途上人〜昨日をくよくよ思うより〜明日に向かって突っ走れ〜)とあるのが目に入った。第一印象は応援歌風青春歌謡。でも何か元気が湧いてくるような作品であった。大抵の場合、残念な事だがこの種の歌はレコーデイングが終了してしまえば歌とも関係者の皆さんとも、その後のお付き合いは無くなってしまう事が多いのが現状である。でも今回は違っていた。その会社とは(株)エクセルヒューマン。社長は深江今朝夫氏という。人柄なのか妙に気になる存在の方であった。年に何回かお会いする機会があり、それ以来、公私共にずっとお付き合いさせて頂いているのだが、先日、宮崎県の串間市にあるエクセルのゲストハウスの敷地内で創業37周年記念の野外コンサートが行なわれた。これまでも有名な歌手が数回出演しているのだが、ここ数年は細川たかしショウーなどで、今回は北島三郎ショウーと演歌の大物が続いている。我々もイメージソングを担当させて頂いている関係で、と言っても今では社長をはじめ社員の皆さんとはファミリー感覚で出演という言葉のニュアンスは当てはまらいかもしれないがご招待を受けた。宮崎空港から車で2時間程の山間でどうしてこんなに大きなイベントを開催するのか、以前は不思議でならなかったのだが、でもそこは社長の故郷、そして出発の場所である事を伺って納得できた。故郷=原点、恩返しの意味も含まれている気がした。片道切符だけで故郷をあとにして大阪へ…、帰りの切符は無い。頑張るしかないのである。さぞかしご苦労をなさったであろう。その努力のおかげで今では立派な大きな会社に成長し、社員の皆さんや社会的にも尊敬される大社長である。でも片時も故郷を忘れる事は無かったのだろう。そんな温かな感謝の気持をこのような形で故郷へ還元なさっていると感じる。社長同様、遠藤先生も北島さんも片道切符で故郷を後にされた。控え室でその話を伺い感動したと言うより自分は幸せ過ぎた事に恥ずかしいくらいであった。準備も進みいよいよ本番、ショウーの前のセレモニーでは我々2人と遠藤先生、いで先生、俳優の三ツ木清隆君とで「明日に向かって」の大合唱、そして、いよいよ北島三郎ショウーの開幕、私達もごく自然に観客席にいた。プロになってから始めて見る演歌のショーであった。無料のコンサートで1000人以上もの町の人達が私達と同様、楽しいひとときを満喫していた。僕自身は演歌と言う音楽に多少の違和感があったのは事実である。でも客席で見た今回のショウーで改めてそれが間違えであった事にきずいた。オーバーな表現ではあるが歌は人生そのものである気がしたし又、僕自身、歌手と言う職業を選んでよかった事を再確認できた。名曲、「明日がある」は楽観的に生きていくタイプとすれば、8年前に遠藤先生からいただいた作品、「明日に向かって」は自分自身で切り開いていくタイプ。歌は世につれ、世は歌につれ。不景気な状況下、どちらを選ぶかは人それぞれである。