思い立ったが吉日

 4月に入り、名古屋の桜はとっくに散ってしまった。「春に三日の晴れはなし!」諺どおり、今日の名古屋は春雨が降っていた。僕は何となくぼんやり…、暇を持て余していて、昼前からパソコンの前でインターネットで情報を探してみたり、電子地図帳で各地方の街を検索したりしていた。要は、先月に納車されたバイクでのツーリングへ出掛ける為の下準備に取り掛かっていただけだった。今回は島根半島一周、米子市を基点に境港から半島東の美保関灯台、チェリーロードをワインデイングして、半島西の日御碕から出雲大社、宍道湖までのルートを予定していた。そして、宿も決まり最終的な日程が出来上がった。が、それに加えて、どうしても行って見たい場所もあった。「思い立ったが吉日!」、早速、出かける準備に取り掛かった。

 4月4日(金)9時、全国的に雨が予想されたその日に名古屋を出発した。案の定、名神道の「関が原」辺りから、本格的に雨が降り出した。それに加えて道路工事と事故の為に大渋滞に巻き込まれた。レインウェアーを着用していても、少々、肌寒かった。でも、ツーリングは自然との戦い、もう、とっくに慣れてしまっている。雨は米子市に入るまで断続的に降り続けて、途中の「大山」近くの米子道では6度まで下がっていた。到着が大幅に遅れてしまったが、疲れはそれほど感じなかった。明日からの2日間は晴天との予報、ルートを再確認して早めに休むことにした。

 4月5日(土) 境港へ向けて走り出した。美保関神社、美保関灯台までは海沿いに続く道、行き交う車も少なくスムーズで今日一日がこの調子で行けたら、なんて、勝手に想像して空を見上げては雲の流れを気にしていた。でも、薄雲は見えるものの、雨の心配はなさそうだった。

美保関灯台
美保関灯台

 それにしても、西日本から関東地方の太平洋側の街では、桜満開のニュースが伝えられているのが嘘のような山陰地方のこの肌寒さ、どうなっているんだろうか?従って、チェリーロードの桜並木も開花には、まだ一週間は掛かるだろう。又、気温もそうだが、ここ、島根半島は独特な臭いが感じられた。何なんだろうか?確かに島根原発所が異様な雰囲気だったし、密航船とか不審船が接岸して拉致される?可能性だって想像できる不気味さが漂っていた。夜は絶対に走りたくないコースだった。でも逆に考えると、昼間はそのままの自然が顔を出し、海沿いかと思うと山間に入り、忘れた頃に小さな集落がみえてくる。まさに、山あり海ありと最高な条件が揃っているのも事実であった。そんな事を考えながら走っていたら途中で行き止まり、仕方なく走れる?道を探す事に神経を集中させていた。何とか見つけたその道を走り続けると宍道湖沿いの国道431号に突き当たった。何か都会に来たような錯覚で一安心。ドライブインに入ってしばし休憩、余韻に浸っていた。国道431号では大社町から出雲大社への案内の標識が目に入った。出雲大社!、高校の修学旅行と20数年前に仕事の合間に訪れた記憶、僕は修学旅行の青春時代の淡い思い出が甦って、チョット感傷的な気分にかられていた。境内の桜はもうすぐ満開の様子、数時間前に見た桜はまだまだ…、とても不思議な感じがしてならなかった。参拝をすませ、半島西の「日御碕」に立ち寄って灯台を撮影、山陰道から米子へと帰路を急いだ。

大社の桜
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 4月6日(日) 昨日の島根半島一周は「ライダー」にとっては最高なルートと感じた。もう一度、走ってみたいとも思った。でも、今日は今回のハイライト!絶対に行かなければならない場所が待っている。そこは…、鳥取県東伯郡東郷町、東郷湖の入り口のJR山陰本線にある松崎と言う「駅」である。

JR松崎駅
JR松崎駅

松崎橋


松崎神社

 以前から鳥取県と福岡県に「松崎駅」がある。と、亡父から聞かされていた。思えば、 亡父はわざわざ福岡県小郡市松崎に出かけ、「松崎」と印刷された入場券をお土産として持ちかえったり、金婚式の家族旅行は伊豆の松崎町に行きたいと言い出して、看板の前で記念写真を撮影したりと、趣味として考えていた様子だった。そういう僕も、四国の足摺岬手前の「松崎海岸」を発見以来、いつしか「松崎巡り」が趣味になってしまったようだ。だから、今回、どうしても訪ねてみたかった。その日のそこは、駅員の姿はみられない無人の駅だった。ブラインドが下りた駅舎のカウンターには使用済みの乗車券数枚が無造作におかれて、改札口の扉は当然の様に開けっぱなしだった。日曜日だからなのか?信じられない程、閑散としていた。隣接する案内所には「おばあさん」が一人、植え込みの花の手入れをしていた。僕は、「松崎と言います。どうしても「ここ」へ来たかったんですが、橋や神社の場所を教えて頂けますか?」と、声をかけた。おばあさんは手を休めて、「あんたも松崎と言うのかね?よく来たね。以前も松崎さんが来られたよ!」と、笑顔で答えてくれた。そして、何処に置いてあったかを思い出すような仕草で屋内を見渡し、簡単な案内図を見つけてくれた。そして、僕に親切丁寧に説明し始めてくれた。僕は、その「おばあさん」の優しさと素朴さに感動するばかりだった。本当に来て良かったと思った。歩いて5分もかからない場所には東郷湖があるし温泉もある。でも、この駅周辺だけは本当に静かだったし、心が和んでいくのが感じられた。教わった通りに松崎橋と松崎神社を訪ねた。神社の神殿ではツーリングの安全を祈願し、木々の間から町並みが見渡せる、急な石段をゆっくり降りてきた。すると、地元の高校生らしきバイクに乗った若者2人に声を掛けられ、「ツーリングですか?良いですね!」と言って、僕のバイクを羨ましそうに見つめていた。少々の優越感?、僕は、「良いバイクだろ〜」、とばかりに、ニンマリ状態だった。その後、日本海沿いを北上して、鳥取砂丘、城崎温泉を経由、丹後半島を回って3日間のツーリングは無事終了する事が出来た。

 旅はプランを考えているだけでも楽しくなるもの、何とも言えない喜びがある。しかし、ごく稀にはハズレもあるものだ。でも、今回は本当に良かった。島根半島一周とJR山陰本線・松崎。「思い立ったが吉日!」は本当だった。

 帰宅してベッドに入り、こんな自由が許される僕を改めて考えてみた。これも自由業の特権なんだろうか?、ちょっとした幸せを感じながら、心は次の福岡県小郡市松崎へのツーリングルートを想像しながら、夢の世界へと眠りに入っていった。

JR松崎駅
JR松崎駅