生口島のロケ

 4月の上旬にテレビ東京の「土曜スペシャル」の収録スケジュールが入った。いわゆる「旅もの」、瀬戸内海に浮かぶ生口島(いくちしま)がそのロケ地だった。僕は半年前、岡山県金光町の仕事を終えて香川県から愛媛県、そして、広島から山口県防府市にある「松崎小学校」へと向かうツーリングをしていた。四国の今治からは「しまなみ海道」を利用した。生口島はその海道沿いに位置する島で、開通してから5年、本州と四国は10本の夢の架け橋で想像以上に身近に、又、便利になった。今回はバイクでの気ままな旅とはいかず、仕事!でも、一味違う経験でとても有意義な旅であった。

 ロケは新幹線新尾道駅から愛媛県今治まで続く「しまなみ海道」を走る高速バス乗車から始まった。因島を過ぎて生口橋を渡ると瀬戸内海のほぼ中央に位置する生口島がみえてくる。島の大半が柑橘系の植物畑におおわれ、爽やかな香りが漂っている人口約1万1千人ほどの島だ。昭和2年に国内初のレモン生産が行われた島だそうで、日本一のレモンの島と呼ばれている。そんなのどかな雰囲気の中、高速バスから巡回バスに乗り換え、柑橘類のテーマパーク・シトラスパークへと訪ねた。丘から眺める瀬戸内海の展望は絶景で海は穏やかであった。その後、島の中心地の瀬戸田町へと向かった。町が近づいてくると近代的なオブジェが目に入ってきた。素朴でのどかな雰囲気の島から芸術の島?そんな光景が目に入ってきた。、丘の上にそびえ立つ巨大な大理石の建物(未来心の丘)、ベルカント・コンサートホール、平山郁夫美術館、耕三寺、どれをとってみても(耕三寺以外)近代的なのである。町の観光商工課の寺岡女史のお話では島全体を美術館と位置づける構想が「しまなみ海道」開通と同時に始められたそうである。それもその筈、瀬戸田町は日本画壇、いや、世界的にも著名な平山郁夫画伯の生誕の町であった。「平山郁夫美術館」、僕は館長の平山助成氏(実弟)の説明を受けながらのんびり作品の数々を鑑賞することができた。日本画はもとより、美術一般に関してこれと言った造詣はない僕なのだが、何故か惹かれたし、何かを感じとることができた。「仏教伝来」、他、作品の数々を鑑賞しながら「仏の教え」と「平和」、作品の原点はそこにあると確信していた。天才はやはり天才!いや、そんな事ではなくて画伯の投げかけている「何か?」の力強さを目の当たりに見せつけられた気がした。日本画の巨匠は人間としても巨匠と言う事だろうか?

平山美術館・平山助成氏と

 

 この島の魅力を上げれば切りがないのだが、その一つに、井上ひさし氏の原作の「ひょっこり・ひょうたん島」の構想もこの町で生まれたそうだ。なるほど、大小の島が点在する瀬戸内海でもやはり特異の島、本当に「ひょうたたん」を縦割りにした形で「ドンガバチョ」が出てきそうな夢が膨らむ雰囲気をかもし出していた。と言う訳で、僕たちは自称「ドンガバチョ」、元船大工の長光さんと小船を出して島へ渡る事にした。穏やかに見えても潮流は速くて40分ほどの航海、大潮で満潮のその日、その時、僕達は島の南側からの上陸をこころみた。しかし、瀬戸田町からの眺める雰囲気とは違い、想像以上に傾斜が厳しくて、とても丘の上から瀬戸内海を一望とはいかなかった。さすがの「ドンガバチョ氏」も呆れ顔、致し方なく海岸にて上陸だけの満足感に浸っていた。島は広島県と愛媛県にまたがり、海の透明度は抜群、又、瀬戸内海の水深は25〜30メートルだそうだが、島の周りだけは50メートルと深く、良き魚場とのことだった。

 
ドンガバチョ氏と

ひょうたん島


 番組ではその他、個人では訪ねる事が出来ない様々な場所や島の人達の生活をご紹介する予定でいるが、撮影の合間に弾む人と人との会話はより一層、僕の心に焼き付いている。日本の素晴らしさ!再発見できた喜びでいっぱいである。この場をお借りしてご協力を頂いた皆様にお礼を申し上げたい。

瀬戸田港

  このところのハードスケジュール、ツーリングに出かける事が出来なかった事に少々欲求不満気味である。季節は最高、そろそろ「何とかの虫?」が、ウゴメキ始めてくるのを感じる。思えば、ソロ・ツーリングの魅力にハマッテから日本の各地を訪ねた。様々な経験や想い出も生まれた。でも、もう一度、瀬戸内、「しまなみ海道」を走ってみたい気持ちが再度、わいてきた。そんな「生口島のロケ」であった。