3匹の子猫

 23日、エツチャンは日本へ戻った。僕は残り一週間のハワイ休暇を一人で過ごす事になった。のんびりと休暇を・・・、いつもそう思ってはいるのだが、何か?いつも問題が生じる。一軒家で生活すれば当然かも知れない。今回もシロアリのチェック、隣家との塀の修理など様々である。日本では業者に電話して依頼すれば早急に処理できるのだが、ここハワイ、いや、外国ではそんなに簡単にはいかないのが現状でスケジュール通りには進まない。否が応にも一日中自宅待機となる事が多い。でも、そんな事には慣れっこになっていたのだが、このたびは少し頭が痛い、心残りの問題が残ってしまいそうだ。

 原因は「3匹の子猫」である。2年程前の事だったろうか?裏庭に設置してあるガス温水器の囲いの中でノラ猫が子猫を出産した。1.5メートル位の高さの囲いの中で4〜5匹の子猫が可愛く鳴いているのを部屋の中からこっそりと眺めていた。親猫は子猫を外敵から守っているのか、常に温水器近くを行ったり来たりで僕たちが窓を開ける音がすると威嚇してきたものだった。その後、子猫は順調に育ったようで、それからは鳴き声も聞こえなくなっていた。

温水器

 8月9日に僕たちはハワイに到着した。いつもの様に家中の窓を開けて空気の入れ替えの準備で各部屋をまわっていた。そして、息子の部屋の窓を開けようとした時に猫の鳴き声が聞こえた。白と黒の斑の猫、僕の方を見て威嚇の姿勢をとっていた。一瞬、僕は以前に家で生まれた猫の事を思い出していた。どちらかと言えば「犬好き」の僕、猫は苦手な方かもしれない。でも、家で生まれた猫だけに(多分)愛着があるのには間違いない。「大きくなったなあ〜」と独り言・・・、しかし、窓の下を覗いてみてビックリした。あの時のように、そこには生まれたばかりの3匹の子猫が寄り添うように寝ていた。そう、2年前に生まれた子猫が親猫(きっとそうだと思う)になって再び我が家の裏庭の同じ場所で子猫を出産してしまった様だ。そんな居心地が良い場所とは考えられないが、親子2代が我が家で出産した模様だ。

 2〜3日の間、僕たちはそっとノラ猫一家の様子を見ていたのだが、ある日を境に親猫の姿が見えなくなっていた。親猫が育児を放棄したのか事故にでも巻きこまれたのか解らないが、なにしろ子猫を残したまま帰ってこなくなった。このまま放置してしまえばきっと3匹は死んでしまうだろう。致し方なく僕たちは子猫の飼い主になることになった。朝晩、牛乳に細かく刻んだパンを与えてから2週間が過ぎた。親猫の姿は未だ何処にもない。僕も来週には帰国しなければならない。僕が帰るまでに子猫の自立?は考えられないし、それまでは餌も与えなければならないし、どうしたら良いものか?施設に委ねるべきなのか?ハワイの知人、友人に相談を持ちかけていた。

子猫3匹

 

 このお話を書いている今、電話が入った。ワイキキにあるメガネの「パリ・ミキ」のY氏からだった。彼は誰か飼い主を探してくれると約束してくれた。よかった!よかった!本当によかった!僕の心配事、心の中のモヤモヤは霧が晴れるような速さで安堵感で一杯になった。正直、今回のお話の結末は施設に預けて「後ろ髪を引かれる思い」で終わらなければならないと思っていた。でも、幸いにもストーリーは大変更、支離滅裂のとんでもないお話になってしまったが、そんな事より、縁があり、我が家で生まれた小さな命がこれからも生きてゆく事ができる道が出来た事が嬉しい。本当に嬉しい。命拾いした「3匹の子猫」、優しい飼い主の下で元気に成長していって欲しいものである。

 すべての生き物には命があるし、「生」を受けた以上、生きて行かなければならないのが運命だと思う。それは人間でも動物でも変わりはないとも思う。ペットとして飼った生き物を飼い主が捨てたり、人が自殺したり、殺しあったり・・・、決して許される事ではないと僕は思う。日本の自宅に帰れば愛犬の「ラム」とカメの「メロン」も待ってくれている。帰ったら今以上に愛情を持って接してやりたいと思った。今回のハワイ休暇での最大な成果?それは命の尊さを改めて教えられた事だった気がする。忙しさに追われて忘れかけそうになってしまった事、恥ずかしながら「3匹の子猫」によって蘇って来た気がした。